「やりすぎの美学」というものが、私の中にあるのですが。何かを徹底的に行う人に、えも言われぬ魅力を感じてしまう私は。建築史家の藤森照信さんの「縄文建築」に惹かれてその書物を読み漁り、藤森さんが庭に建てたという茅葺きの、「自家用竪穴式住居」に常識を覆されて、「庭に竪穴式住居があるって、どんな感じだろう?これは、建ててみないとわからない!」という思いで、自宅の庭に杉の皮葺きの、竪穴式住居を建ててしまったのでした!
藤森照信さんの縄文建築というものは、そのものズバリ。「自然素材路線をやり過ぎた建築」です。
遺跡のようなデザイン性を持ち、自然素材を多用して造ったその建築は、「見たこともないのに懐かしい」と称される、なんとも不思議な建築物です。
鉄筋コンクリートで土台を作り、藁の入った土色のモルタルで覆った外壁は、その上から土をスプレーで吹き付けられたりします。
屋根には半世紀前の技術で鉄平石が葺かれ、その屋根をイチイの丸太が「突き抜けている」というデザイン。窓には手吹きのガラスで造られた、ガラス障子が使われています。
浜松市にある秋野不矩美術館、屋根の上にニラを植えた赤瀬川原平氏邸「ニラハウス」(日本芸術大賞受賞)や、タンポポを植えた「タンポポハウス」、松の木を象徴的に使った「一本松ハウス」など。
漆喰壁や自然素材・植物を多用した藤森照信さんの建築は、断熱性を高めるために壁の厚さを三十センチにするなど、現代ではおおよそ、見たことも聞いたこともない建物であることに間違いはありません。
そういった「建築」に焦点をあてて三内丸山遺跡を見ると、ここにある大型復元住居や、樹皮葺きや土葺きで造られた縄文の復元住居は。なんともいえない味わい深いものに見えてきます。
土の匂いのする建築。それが、復元住居の魅力なのではないでしょうか?
昨年秋に三内丸山遺跡で開催されたJOMON NIGHTでは、大型復元住居の中で、縄文夜会を開こうという趣旨の下、「そこまでやるのですか!?」と言わせるような縄文料理が私たちの前に供されました。
まず、前菜は山菜料理と海産物の干し物。刺身は昆布締めにした平目を黒曜石で削いだもの。(抜群に美味しい。しかも黒曜石って……)
焼き物は「鯛と鮑の朴葉包み塩釜焼き」、「イノシシのつくね」に、イノシシに栗や胡桃を入れて焼いたもの、「イノシシのシソ巻き」など。鍋物は豊富な魚介類の「焼き石鍋」!デザートにアケビや胡桃、ヤマブドウ、栗という縄文の豪華食材が目白押しという、夢のような宴でありました。
土の匂いを嗅ぎ、縄文太鼓の迫力ある音に酔い、裸足で踊り出してしまうような。(実際に踊り出してしまいましたが)縄文に彩られた一日でした。
史跡である三内丸山遺跡では、普段は火を使うことができません。
なので、こういったイベントはめったに開かれるものではないと思います。
しかし、縄文というものはやはり、火がなければ語れないものだと思うのです。
縄文土器を野辺で焼き、土器で料理を作り、炉に火を入れ、火を囲んだ縄文人。
火は、縄文を語る上で最も重要なものだと思います。
そういった火を使った催しを、実際に三内丸山でできないものか?
こういった問いかけに、県庁職員の方々は、
「史跡で火を使うことは本当は許されていないのですが、『縄文特区』ということで許可が下りれば……」
と、前向きな姿勢を見せて下さいました。
そう、やりすぎの美学です。どうせやるなら、徹底的に! 我々の力で縄文の心を、取り戻そうじゃないですか!
できることなら、三内丸山遺跡まで来ていただけるのなら、春になったら裸足になって、大地の上を歩いてほしい。
縄文時遊館という建物は、「現代から縄文へ」というコンセプトに基づいて造られている建物だと思います。
現代的なその建物のトンネルをくぐり抜けたら、私たちの知っている場所とは違うところ。縄文の里が現れるはずなのです。その場所に求められているのは、植物に触れ、土の匂いのする住居の匂いを嗅ぎ、草の上に寝転び、風を感じ、自然の心を取り戻すこと。
靴を履かないことを知らぬ私たちは、裸足の足が何を感じ、何を思っているかを知りません。本当に美味しいおむすびは、手を水で濡らし、手に塩を塗って、心を込めてご飯を結んだおむすびです。
そんなおむすびを、子供にも、大人にも。青空の下で食べて欲しい。
三内丸山遺跡が、そういった「自然に還る日」を産み出すような、素晴らしい空間になればいいなと。私は願っているのです。