ホーム > 連載企画 > 第50回 ああ、オーパーツは永遠の憧れなり

このページの本文

連載企画

世界の"世界遺産"から

第50回 ああ、オーパーツは永遠の憧れなり 2013年8月29日

1700万ものダウンロードを達成したパズドラ(ご存知ですか、大人気のスマホのゲームです)に、はまりまくりの夏の日々である。朝起きたら、すぐにログイン。原稿の合間をぬって、モンスターを地道に育てる。このマメな姿勢が仕事にも活かせればいいのだが、という反省はさておき、最近嬉しくなっちゃったのはそのパズドラに、世界遺産&オーパーツとして知られるパールベックの巨石をモチーフにしたモンスターが登場したこと。オーパーツとは、建築や製造が推測される時代の技術ではあり得ない工芸品や遺跡で、以前こちらで取り上げたイギリスのストーンヘンジもそのひとつ。インディ・ジョーンズにも登場した、水晶ドクロも有名である。研究が進むにつれ、どうやら近年になって作られた気配が濃厚だが、それでもなお、もし実際に水晶ドクロを目の当たりにできたら……と妄想すると、鼻血が出そうなくらい興奮する。てなわけで、パズドラにいっそうはまっているのだが。

実は春に出かけたインドでも、憧れのオーパーツと遭遇できた。訪れたのはデリー市内の世界遺産、クトゥブ・ミナール。72.5メートルのミナレット(イスラム教のモスクに付随する尖塔)である。その高さもさることながら、全体に刻まれた紋様や青空を背景に立つ姿が美しい。イスラムとヒンドゥが融合した歴史を思い、うっとりしながら周辺をうろうろしているうち、何度も写真で見たことのある、錆びた鉄柱の存在に気づいた。7メートル(地中2メートル)ほどの、チャンドラヴァルマンの柱……。通常、半世紀も過ぎれば鉄は錆びるはずだが、なんと1500年以上もの歳月を経ても、この鉄柱は変化がないのだ。

囲いが施され、サンスクリット語の碑文が記された表面に直接ふれられないのはまことに残念だったが、自分がオーパーツと一緒にいるというそれだけで、笑いがこみあげてくる。旅前のリサーチでは世界遺産ばかりに気を取られ、この柱と出会えるなんて思っていなかっただけに喜びはひとしお。右から左から遠くからと、場所をかえて眺めてはにやにや(こうなるともう、ある種の変態か)。不純物が含まれているがゆえという説をはじめ、錆びない理由はまだ確定されていない。クトゥブ・ミナールとて、どうやって13世紀当時、この繊細な美しさを表現できたのか、不思議でならない。どれほどのエネルギーが、その建築に費やされたことか。などと考えていると、あっという間に時間は過ぎていく。かの赤毛のアンがいうところの、「想像の余地」がたっぷりあるのが、遺跡やオーパーツの最大の魅力。ビールでもあればなおさらに夢に酔えたのだが……酒の入手に苦労したインド話は、またあらためて。

オーパーツである鉄柱とクトゥブ・ミナール。 写真:松隈直樹

オーパーツである鉄柱とクトゥブ・ミナール。
写真:松隈直樹

クトゥブ・ミナールのレリーフ。 写真:松隈直樹

クトゥブ・ミナールのレリーフ。
写真:松隈直樹

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

バックナンバー

本文ここまで