妄想天国ヴェルサイユ宮殿の礎は、1624年に建てられた猟館。ルイ13世の命によるものだが、決して瀟洒でも大規模でもなかったらしい。その後、今ある豪華絢爛煌びやかな姿へと一気に推し進めたのは、ルイ14世。「朕は国家なり」の発言でも知られる、「太陽王」と呼ばれた人である。工事は1680年から20年近くにわたり、増改築を重ねながら行われた。ルイ14世は設計にもかなりやかましく口を出したというが、この時期、オランダやスペインほか、フランスは近隣諸国との諍いが絶えず、王自らが戦場に赴くことも多々あったことを思えば、忙中の息抜きに相当したのかもしれない。土地もお金も使い放題。なんとも羨ましい息抜きではあるが、財政の建て直しを図っていたコルベールは、いい顔をしなかったようだ。そりゃあ、そうだろう。心中、深くお察しする。実際、度重なる戦争とともに、絶対王制の象徴ともいえるヴェルサイユ宮殿の建築費は国庫を圧迫し、やがてフランス革命へとつながるのだから、皮肉なお話である。
とはいえ、民衆もヴェルサイユ宮殿を訪れ、なかを自由に歩けたというから、一部の人たちにとってはテーマパーク的な楽しみをもたらしたのか。まあ、パリからわざわざ訪れて物見遊山できたのは、そこそこに暇もお金もある層に限られていただろうが。また、放蕩を尽くして政治を放ったらかしにしていたルイ15世とは異なり、ルイ14世は国内政治と国家の安定化のため、かなり心血を注いでいる。その傍ら、アバンチュールもあれやこれや。王自らも儀式の際に踊っていたというバレエの発展ほか、文化面での寄与も見逃せない。とにかく、すべてにわたってパワフル&エネルギッシュだったのだろう。低い身長をごまかすために、ヒールのついた靴をはいていたエピソードもなんとなく好感がもてるが、もしわたくしが当時、ヴェルサイユにいたら、王とラブラブ恋におちたかしらという身勝手な想像をすると、答えは否。
ご存知の方も多いと思うが、当時の宮殿内では、日々たまった汚物が庭にまき散らされていたのである。また、医者のすすめによって歯をすべて抜かれたルイ14世は胃腸が弱く、食事を楽しめないどころか、お腹ゴロゴロの状態も少なくなかったとか。でもって、ひらひらのお洋服に鼻を近づけると、なんともいえない匂いがぷん。その代わりに、香水をばしゃばしゃ。慣れれば気にならなくなるものなんですかねえ……。あれれ、甘美なはずの妄想が、なぜクサい方向に? ああ、申し訳ありませんです。ルイ14世が草場の陰で、余計なお世話と怒っていそう。すいません、すいません。

宮殿内にはルイ14世が建てた礼拝堂も。
写真:松隈直樹

ルイ14世の最期を看取った「王の寝室」。
写真:松隈直樹