
小学生が作ったパワフルな現代土偶!
素晴らしい土偶展が滋賀県のミホミュージアムであったので出かけたときのことです。帰りのバスで壮年のご婦人に声をかけられました。その人は縄文の土偶というものを初めて見たと言って感激冷めやらぬ風情で、その造形や表情を心熱く賞賛されました。Y先生とは、それが初めての出会いでした。
Y先生は小学校で図工を教える先生でした。寸分違わぬ出来上がりの組立キットでしかない今の図工教材を嘆き、5教科では発現できない、クリエイティブな子どもの可能性を見つけるチャンスであるべき芸術教育が、無味乾燥に不毛化していることを怒っておられました。私の職業のことを知ると、先生は「生徒と一緒に是非土偶を作って下さい!」と頼まれました。
土偶が取りもつ縁でしょうか、遠い博物館で出会ったのに、Y先生が勤められる小学校は私が住む町の、しかもご近所でした。まもなく電話が入り、先生が受け持つ小学5年生と土偶を作るワークショップをして下さいと頼まれました。打合せに伺うと、絵の具で汚れた懐かしい風景の図工室に通されました。そこには先生が手ずから作った土粘土の土偶がちょこんと置かれていました。「お恥ずかしいのですが・・」と冷や汗をかかれる先生の土偶は、はつらつとした子どもの創作エネルギーを知っている人の作品だとすぐわかりました。この先生ならきっと奔放に豊かな創作をする生徒たちを育てているだろうと思われました。
先生は相変わらず情熱的で、「ちょうど東北旅行を計画していたので、三内丸山遺跡にも行くことことにしました!」と言われます。「縄文発信の会にも入りたいが手続きを教えて下さい!」と矢継ぎ早です。
岡田先生に習って縄文伝道師を自認する者としては 身に余る悦び、しかもその人は 現代の子ども達が知るべきこと、体験するべき大切なこととして 縄文時代を大発見したと興奮して語るベテランの小学校教師です。かねてから、縄文時代にあった知恵と力を子どもたちに伝えることが一番の仕事だと思っていた私に、Y先生を介して土偶たちから任務が与えられたんだなと自然に思えたことでした。
また、打合せの折には、先生のご主人が公立高校写真部の顧問をされているというお話も出ましたが、その数日後、偶然テレビでその写真部が紹介されているのを見ました。人間のゆらぎに満ちた内面的風景をナイーブな若者の視線で捉え写真に表現することを、Y先生のご主人は不登校や家庭の悩みを抱える高校生に教えておられました。その子らが撮った写真が毎年最優秀賞を受賞するので、番組になったのです。
これは素敵な教師ペアに出会ったなと、改めて土偶に感謝。
子ども工作教室を営んで15年、今の日本の芸術教育について私が持ち続けてきた思いと同じ思いで、コツコツと自分が出来ることから実践している現場の先生たちがいることに、静かな感動を覚える出会いを土偶から頂いたのでした。
ワークショップ当日、チャーミングなニヤニヤ笑いの子どもたちが、先生が興奮して連れてきた知らないおばちゃんのお手並み拝見とやってきます。残念だったね。おばちゃんに驚くのじゃなくて縄文人が残したものに驚くからね。君たちも。
こんなに大胆で仔細で念入りなカタチを作った人々が 数千年前の 今君が立っている土地にいたかもしれない。1万年前にもお母さんがいて赤ちゃんがいて、兄弟はケンカしながらお父さんが狩りから帰るのを玄関口で待っていたんだろうね。
しかも、その人たちは、私たちが思っていたより数万倍も感性豊かで、センスがあり、かしこかった。
Y先生が発見した縄文時代の面白さは、いつしか子どもたちも夢中にさせたようでした。
Y先生から紹介されて行った、これは別の小学校でのお話ですが、6年生全員が頭から湯気を出すようにして楽しげにマニヤックに取り組んだ4時間ものワークショップのあとで、見学していた校長先生が私にこう耳打ちされました。
「いつもなら教室で10分と座っていられない子が、ひとときも離れずにぶっ通しで土器を作っていました。楽しかったんですね。ありがとうございます。」
…そのありがとうは、Y先生と縄文人に伝えておきます。
安芸 早穂子 HomepageGallery 精霊の縄文トリップ