プラネタリウムやテレビで何度も見ているし……と少々油断していたのかもしれない。目の当たりにした瞬間、自分の予測を遙かに越えた感慨がふくらんできた。夜空にふわりと浮かんだ緑のカーテンは、刻々と表情を変えていく。隣りに立つガイドが「Dancing」と表現したが、オーロラはまさしく「踊る」ように動いていた。淡くなったかと思えば、その直後にたまったエネルギーを放出するかのように緑色が深まったり、もう終わりなのかしらとひと息つこうとしたとたん、後ろにふわり姿を現したり。あまりにも華麗で、優雅で、不思議で。自然が見せる見事なショーを前にして、見飽きることなくすっかり時間を忘れた。カナダ・ユーコン準州の州都、ホワイトホースでのこと。気まぐれなオーロラと遭遇できる確率が高いと、近年になってファンから新たに注目を浴びているエリアである。
この春先になぜオーロラの話なの? と思われるかもしれないが、実は夏に向けて皆さまに旅の計画をたてていただきたいと思い立ったがゆえ。一般的にオーロラを見るといえば、真冬の極寒のなか、重装備で出かけるイメージだろう。しかしながらユーコンでは、なんと8月末にオーロラシーズン到来! すなわち、遅めの夏休みに夜空のエンターテイメントを満喫できるのだ。拠点となるホワイトホースまでは、バンクーバーから2時間半のフライト。しかも、夕食をゆるり食べて満腹になった頃、郊外まで30分ほど車走らせればOKという気軽さ。8月とはいえときには零下近くまで気温は下がるものの、寒さに強い青森の皆さまならさほどきつくはないはず。実際、オーロラをコテージのベランダから眺められるのが売りの宿に滞在していた際のわたくしは、パジャマ姿に裸足でサンダル履き、赤ワインの入ったグラス片手にという呑気な恰好で、口をあんぐり開けていた。
かつてゴールドラッシュで賑わった時代の景色がそのまま残り、世界遺産の候補になっているドーソン・シティを訪ねたときも、当時の雰囲気そのままのカンカンショーをウイスキーとともに楽しんだあとの酒気帯び状態。車で10分ほどの小高い丘で、夜の第2部がスタートした。現在は人口約1300人の小さな町だが、19世紀末には欧米各地から4万もの人が黄金の輝きを求めて集まったそうだ。もしかしたら一攫千金を手にできたか否かで、オーロラが彩る景色は異なって見えたかもしれない。夢破れた人たちは、夜空を見上げてなにを考えたのかな……。酒、オーロラ、そして過去へのトリップの三重奏で、いつものごとく涙した次第。いや、単なる飲み過ぎか。悲喜こもごものゴールドラッシュに関しては、次回また引き続き……。

ロマンあふれる夜空のエンターテイメント。
写真:松隈直樹

お色気あふれる地上のエンターテイメント(ドーソン・シティ)。
写真:松隈直樹