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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第68回 「TANE」という先住民神話 2014年5月1日
研究者とアーチストがともに刺激を受けあうための グループ展とワークショップの試みです

研究者とアーチストがともに刺激を受けあうための
グループ展とワークショップの試みです

TANEというタイトルのグループ展をしました。
TANEはもちろん日本語の「種」でもありますが、なんとニュージーランドの先住民マオリ族の神話でTANEは森の神であり、天地創造の神でもあるというのです。

グループ展TANEは「植物」という統一テーマで、国柄、職種、世代が全然違う4人が自分の「植物観」をそれぞれの形で表現するという試みです。民博のニュージーランド人研究者、国際学校のアメリカ人美術教師、メディアアーチストを目指すバイリンガル青年、そして私がメンバーです。

その打ち合わせ中に民族植物学者のマシューズさんから、TANEにまつわるこの話を聞いた途端、全員が「それだ!」と手を打って展覧会のタイトルが決まったのでした。

マオリに伝わるTANEの神話はこういうものです。
「その昔、天と地は深く愛し合う夫婦であって固く抱き合い結ばれていた。二人の間に生まれた子ども達は、くっついた二人の間の暗闇でとても窮屈な思いをしていた。やがて彼らの弟、森の神であるTANEが生まれ、成長して立ち上がると天と地がめりめりとはがされて別々になり、そのすき間に光がさして数々の生きものが生まれた。森であるTANEは、母である地に根を張り耕して豊かにし、光を浴びて父なる天をめざし、分かたれた天と地の涙である雨を汲みあげて枝を伸ばし花を咲かせる。」

先住民族の英知に満ちた物語を、思いがけずここでも知ることになって、言葉に集積される民族の知恵の偉大さに一同いまさらながら感動をしたのでした。

『植物』は、天と地の間をつなぎ、その間を満たす光によって生き、地の水を天に還し、空気と雨を創りだすもの。あらゆる生き物の創造主であり世話人である存在。

マシューズさんはワークフィールドである熱帯雨林の写真と電子顕微鏡で見たイモの染色体など分子生物学的写真を展示、大阪インターナショナルスクールでアートの教師をするジェニファーさんは小学生と共同制作で太陽と芽吹きのインスタレーションを、芸大でメディアアートを専攻した息子は映像と音楽で樹木の中の水の流れを表現、私はというと、木のスライスに描いた絵ということで、4種4様に偉大なる創造神TANEの賛美を試みました。

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南太平洋の島々をカヌーで旅した海洋民マオリの人々は、水平線でくっついている空と海、空と陸を見ては、森の神TANEがもたらしてくれた光と生きものの彩に満ちた世界について感謝の思いを新たにしたのでしょう。

サーファーのタットゥーでもトレンドなマオリの伝統文様は、スパイラルや反復反転の複雑な秩序に貫かれた縄文の文様ととても似ています。重層的に変化するその複雑でおおらかな秩序は、とりもなおさず彼らの物語の中の秩序であり、人智を超えて複雑多様な自然界を貫く秩序でもあると思われます。

縄文やマオリに伝わる文様は、また歌、踊り、そして物語は、それらを学び知り尽くした人々が体現しようとした形と言葉であっただろうと、一層その思いを強くしたTANEの試みでした。

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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