
絵 安芸早穂子
(参考 携帯の形態 旅する形 INAXギャラリー)
江戸時代の日本人が日々の遊びとそのための道具にただならぬテイストを発揮していたことは 今も残る秀逸な工芸品を見ればわかります。江戸の職人たちが残した遊びのための豊かに粋なデザインには、心底シビレます。
特に旅や、ピクニックのために考案された道具には心憎いまでのアイデアが詰め込まれています。
「腰弁当」は文字通り風呂敷に包んで腰に巻き携帯したピクニックbox。
腰の曲線に沿うセクシーな三日月型の塗りの重箱弁当です。腰付酒筒は、さらにセクシーに湾曲した塗りの箱型酒器。冬はここに熱燗を入れて腰に巻くと寒い道中の背中の湯たんぼになる、冷酒を入れても弁当を広げる頃には人肌に熱燗が!!!解説しながら興奮するくらい素晴らしいアイデアではありませんか?!しかも、酒器の下にはツマミを入れる引き出しまでついているのです!
暮らしの役に立つという機能の上にデザインの美しさがあるこのような工芸作品は文字通り職人の知恵と技の結晶といえるでしょう。コンパクトな機能美にあふれていた江戸時代の生活を妄想すると、100円ショップでこと足りている私のマンションライフがいかにも貧しくつまらないものに思われます。
無印良品を立ち上げたデザイナー原 研哉は『日本のデザイン ― 美意識がつくる未来』の中で盆栽と軽自動車を並べて どちらにもあるコンパクトな機能性デザインは日本人の文化資源だと言っています。
さて、そういう視点で縄文土器を眺めてみると、これは本当に不思議な器です。そこにあるのは機能性というよりは非合理性であり、非合理でありながら最終的には双極のつじつまが合うという紋様をもつ洗練されたデザインでもあります。
機能を上回る何かのために捧げられているとでもいうべきこの不思議なデザイン、火と火炎、水と奔流、何かにつき動かされて現れ出る霊的なインスピレーションに溢れる造形で飾られたこれらの器は、突起やギザギザ、重さやサイズから見ても人の日常に仕えることを目的としていないように見えます。

タイムカプセルデザイン?縄文土器
ではそれらは 何に仕えることを目的としていたのでしょうか。現代人が忘れてしまった尺度で測られたであろう縄文人にとっての機能性とは どのような役目のことだったのか。
せっぱつまった祈りや怖れの対象となるものへ 仲介の使命を担って捧げられるものを封印する、おくる、又は違う姿に変げさせるために それらの器は飾られなければならなかったし、火にかけられたり、埋められたりしなければならなかったのでしょうか。
火炎が舞い、荒海の波が渦を巻くような飾りがある土器では魚が煮られていたと、最新の分析データから判明したという話も聞きます。
母親の顔と、たった今世界に生み落とされるばかりのあかごを飾りにもつ土器では、内側にあるものは胎内にあるように眠り、育まれ、又は再びそうあることを願って葬られたのかもしれません。
このように考えると、縄文土器には広大な世界観と部族の歴史が巧妙にコンパクトにデザインされていたのではないかとも思えてきます。雄渾なダイナミズムのなかでコンパクトに語られる古代人の世界観。縄文土器をデザインの眼で見ると そんなことを連想します。縄文土器はそういう意味でも、一万年の部族の歴史を収めたタイムカプセルといえるかもしれません。そこにはいくらか精霊の遊びやハンターたちの粋な計らいも 隠されていたかもしれませんね。
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