ホーム > 連載企画 > 第40回 地方消滅と地方創生-縄文から見れば(1)

このページの本文

連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第40回 地方消滅と地方創生-縄文から見れば(1) 2014年11月13日

2040年までに876の市町村が消えるというショッキングな結果がでた(増田寛也『地方消滅』中公新書2014)。日本の人口は、2008年をピークに2050年には1億人を切り、2100年には5000万人(明治期の人口数に近い)にまで減少するという。主な原因は出生率の低下(若年女性の減少)で、ほかに高齢化や東京一極集中などさまざまな要因が絡むのだが、大データを駆使したシミュレーションの予測はほぼ正確なものとされている。

『地方消滅』に示された地図(*1)を見ると、北海道から東北にかけての市町村の多くに危険信号が付せられているのが気になった。縄文遺跡が濃密に分布している地域である。
これらの地域は廃墟となるのか?それを防ぐためには、総合的な国家戦略が必要だと地方創生担当大臣が誕生したのだろう。しかし、繁栄を極める日本の「現状を維持したい」という現状維持の生活スタイルを変えようとしない限り、その対策は真の効果は出せないだろう。

人口学者の鬼頭宏さんは、日本列島の人口変遷をたどると4つの波がみられ、その最初の波が縄文時代にあったと述べている(ナショナルジオグラフィック日本版webテーマ特集「日本の未来」第2回(*2))。
縄文時代の人口は、前期から急速に伸び始め、中期でピークに達した後大きく減少する。そんな変動のダイナミズムを握っていた地域の一つが北海道から東北にかけての円筒土器文化圏であり、その中核に位置していたのが三内丸山遺跡であった。ところが、三内丸山遺跡は人口衰退の動きと軌を一にして、後期には突然消えてしまう。しかし、東北、北海道という地域全体で見ると滅び去ったわけではない。人々がその危機をどう乗り越えていったかを考えてみたいと思う。

考古学者にとって都市や文化が消えてしまうことは常に目前にしていることだ。すぐ思いつくだけでも、貧しい集落の背後にひろがるモヘンジョダロの大遺跡(パキスタン)、宇宙人がつくったのではないかとさえ言われたアンデス山中のマチュピチュ遺跡(ペルー)などがある。雑木林の中に眠っていた縄文都市、三内丸山遺跡もその一つに数えていいだろう。一方で、アボリジニ社会のように集落が捨てられたり再建されたりを繰り返しながらしぶとく生き残っている例もある。

地域の盛衰は人類社会の中でいつも起こっていることだ。今の地球上では人口が増え続け70億人を超えているが、そのためにグローバル規模で環境を破壊し、自然や化石燃料ばかりでなく、過酷事故をおこす原子力まで使うことでどうにか現在の社会経済レベルが維持できているともいえる。それに代わるシステムとはどんなものか。人口は多ければいいのか、あるいは減少しても適切な量をみつけることが大切なのかを考えなければならないだろう。そのカギの一つとして、地球や国家というマクロな視点とは別に、限られた範囲(地方)に住む一人の人間として、つまり、縄文人の視線で、望ましい生活とはどんなものかを考える必要があると私は思う。(つづく)

(※1)増田寛也 『地方消滅』 中央公論新社2014年

(※1)増田寛也 『地方消滅』 中央公論新社2014年

(*2)鬼頭宏 ナショナルジオグラフィック日本版webテーマ特集「日本の未来」第2回 『その1 日本に最適の人口は何人?』 (2011年6月13日掲載記事) http://nationalgeographic.jp/nng/article/20110907/283250/index2.shtml

(*2)鬼頭宏 ナショナルジオグラフィック日本版webテーマ特集「日本の未来」第2回
『その1 日本に最適の人口は何人?』 (2011年6月13日掲載記事)
http://nationalgeographic.jp/nng/article/20110907/283250/index2.shtml

プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

バックナンバー

本文ここまで