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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第77回 SIRIと生殖 2015年2月6日

写真スマートフォンがハンサムな男優だったり、ポップスターだったりするコマーシャルを見るまでもなく、間もなく我々はSIRIに恋するようになるでしょう。
たしかそういう映画がありました。おそらく数十年のうちに携帯電話は拡張現実のホログラム的姿を持つようになり、ミクちゃんやリョウ君が常におそばに侍ってあなたの予定や友達のメッセージをお話してくれるようになる日は近いと思います。

スティーブ=ジョブスが 直感的であれと自社製品に言い続けたことは有名ですが、直感的会話とは官能的なものでもあります。エモーショナルにも聞こえる言葉を発するが理知的で博識この上なく機微に優れ、決して逆らったり、腹を立てさせたりしないパートナーと一緒にいることは 全く本当に心地よいことで、恋愛から楽なところだけを抜き出して、恐ろしくエネルギーが要って面倒な部分を削除したら「音声認識型のパーソナルアシスタント」、又は「秘書機能アプリケーションソフトウェア」となるのでしょう。

人類滅亡の危機とはひょっとしてこのようにやってくるのかもしれないと思います。種の保存を忘れて快楽だけを求めた人類は 携帯電話と供に滅んでゆく・・・とか。まあハルマゲドンとかでひどい目に合うよりは、デカダンに楽しく滅ぶのも悪くはありませんが、そう思うこと自体、自然界の生命体としては退化しているわけですね。

解剖学者の三木成夫は 人間の身体システムの機能を2種類に分けました。2つの機能の目的はシンプルで 生殖活動を行い子どもを育て上げ、種の保存を成し遂げることを最終目的とした「内臓系」と それを護り持ち運ぶための「外壁系」です。驚くべきは、脳は外壁系で いわば生殖器官を安全に持ち運ぶための司令塔に過ぎないという彼の思想です。

しかし、種の保存に最も理想的な社会システムと言われる昆虫の社会を見ると 確かに恋愛にうつつを抜かすようなエネルギーの無駄は排除され、社会全体の目的は淡々と生殖母体を護り、生殖コンディションを維持することに専念しています。

と、言うことはあれか?携帯電話と同棲して、試験管で人工生殖をするというのが、エネルギー効率からみても生き心地から見ても最も安定した人類の種の保存の未来なのですね。

それと全く逆に考えてゆくと 地母神を頂いて石棒を祀った縄文社会はとても正しい気がしてきます。一番大切なことを知り、男はフラフラどこへでも行って獲物を探し、女はどっかりと村にいて手堅く木の実や貝を拾い集め、土器や編み物を伝承し祖母から孫へ部族の伝統を引き継ぎ、時々男どもが返ってくると官能的にねぎらってまた送り出すと・・・少なくとも縄文時代の人間たちは蜂よりも複雑な感情や社会に適応した生命体だったんだな・・・

絵

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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