前回に引き続き、トルコのお話をば。
世界遺産に登録されたイスタンブールの歴史地区では、最盛期に北アフリカから東欧、西アジアまで勢力を広げていたオスマン朝の栄華をそこかしこで実感したのだが、そのなかでもっとも強烈でわかりやすいパンチを浴びたのは、トプカプ宮殿で展示されていた宝飾品の数々。15世紀から19世紀にかけて、スルタン(王)の居城だった宮殿は現在、博物館となっている。
撮影禁止で写真をお見せできないのが残念だが……たとえば86カラット(ピンと来ないと思いますが、6センチ×7センチ程の大きさ)の特大ダイヤモンドの周囲を、49個のこれまた大粒のダイヤモンドが彩る品。世界最大といわれる、3キロのエメラルド。6482個のダイヤモンドが鏤められた黄金のろうそく立て。他の国からの献上品もスルタンの命で作られたものも、とにかくすべてが金と宝石のオンパレード。最初は「おおっ」と感動していたものの、あまりにも圧倒されたせいか、次第に動じなくなってしまうはめに。
一方で、随所で時間を忘れるほどに見入り、胸ときめかせたのは、宮殿の内部を彩るタイルである。青、赤、緑。それぞれに異なる草木や果物の模様が描かれ、壁一面を覆う様には幾度となくうっとり。ことに、スルタンとともに女官たちが暮らしたハレムは贅を尽くした部屋が続いたが、幸せな笑顔に満ちていたワケではなかったようだ。
ハレムの入口には大きな鏡がかけられており、なんと優雅かと見惚れたものの、1000人以上いた女官の行動を最大限見張るためだと知り愕然となる。裁縫や音楽、礼儀作法、語学まで徹底して教え込まれた彼女たちは、スルタンの目に留まれば寵愛を受けたり、世継ぎとなる皇子を生んだりとさらなるステップを踏めるが、常に熾烈な権力争いが繰り広げられてた閉鎖的な状況では、心安らげなかったことだろう。
宮殿が建つのは、船が行き交うボスボラス海峡を見渡せる丘。その景色は自由がない日々の慰めになったのか、あるいは逆に、自由への憧れが募るだけだったのか。美しいタイルもただひんやりと感じるだけで、心が動かなかったのかもしれない。
宝飾品のパワーと悲しい妄想に少々くたびれて表に出れば、ちょうど昼時。乾いた喉に、冷たい白ワインをたっぷり流し込みたくなった。すこぶるうんまい羊肉で、元気を取り戻したくなった。中華、フレンチとともに世界の三大料理といわれるトルコの美味に関しては、また次回。

トプカプ宮殿のハレム内にある皇帝の間。
写真:松隈直樹

宮殿の敷地に建つ離宮のひとつ。もっとも悩殺された青。
写真:松隈直樹