アルコール飲料が欲しい。日本でそう思ったら、たとえ夜中でも早朝でも応えてくれる場所がある。コンビニ、ファミレス、牛丼屋さんという手もある。ことに東京は世界で一番、酒とのふれあいが容易にできるの街ではないかしら……。そんなことを考えながらとびきり旨い羊肉を頬張っていたのは、イスタンブール随一の人気を誇る食堂での昼食である。ぴり辛ソースをつけた羊オンーパーレドなのに、片手にはコーラ。それでも大満足だったが、ワインがあったら幸せ百倍だったに違いない。
3日3晩続いても大歓迎(実際、体験したときは毛穴から羊臭がした)なくらい羊好きのわたくしにとって、そこかしこで気軽に、しかもお手頃価格でメエメエできるトルコは天国。しかしながら、国民の多くがイスラム教徒なだけあって、地元の人が日常的に利用するロカンタと呼ばれる食堂や、ドネルケバブのような軽食を扱う店では、アルコールがないのがほとんど。心のなかで何度「酒~!」と叫んだことか。
親指の先くらいの大きさの小さな水餃子「マントゥ」にもはまったが、これまたメニューを見たらドリンクはヨーグルトだけ。いや、塩をきかせたこのヨーグルトも美味だったのだが、なんせソースにたっぷりにんにくがきいているから、たまらない。悶々としつつ、お代わりした次第。
道端の屋台からレストランまで、口にするものすべてがおいしく、ひたすら胃腸の運動を続ける途中、随所でお世話になったのが、チャイだった。小さなガラスの器に入ったチャイは、散策途中に喉を潤すのにうってつけ。合わせるのは、甘い甘い甘いスイーツ。最初は脳天に響くほどの衝撃を受けるが、だんだんと快感に覚えるようになる。
一方、少々ゆるりと休憩したいときの友は、「トルココーヒー」だ。専用の小鍋に水と粉状のコーヒーを入れ、じっくり煮出してつくる。アラビア半島からコーヒー文化が伝わったのは、450年ほど前。ユネスコの無形文化遺産に登録されている。炭火を使った昔ながらの屋台で味わった一杯は、豊かな風味にうっとりとなった。上澄みをほとんど飲み干し、カップのなかがどろどろになった頃、店の主人がテーブルにやってきた。「ちょっと待っててね」と言いながら、カップをひっくり返したのだ。あっ、コーヒー占い!
落ち着くのを待つ間、どんな結果が出るかしらとドキドキ。もとに戻したカップの底には、複雑な模様が描かれてる。「どんなメッセージ?」と目を輝かせながら聞いたわたくしに、アル・パチーノにも似たその男性は、ステキな笑顔で答えてくれた。
「僕には解読できないから、写真を撮って誰かわかる人に聞くといいよ」
なんなんだ、そのオチは~?! 「わかる人」なんぞまわりにいるワケがなく、彼の地で示された(はずの)わたくしの未来は、今なおナゾのまま。

店頭に料理が並ぶ食堂も多く、散策中に心が揺らいだ。
写真:松隈直樹

水餃子マントゥの名は中国語の饅頭から派生したとか。
写真:松隈直樹

旨しトルココーヒーを入れてくれたアル・パチーノ(仮名)氏。
写真:松隈直樹