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連載企画

縄文探検につれてって!-安芸 早穂子-

第83回 アートが考古学にできること その2 2015年10月2日

aki083-1b京都祇園の建仁寺は、あまりにも有名ですがその塔頭のひとつ、苔、岩、水の名勝庭園を擁する両足院は花見小路の賑わいとは別世界の静寂な寺院空間です。
秋の虫の鳴き声を風情に感じるには、このうえない季節に、その贅沢な庭を望む書院をお借りして「アートと考古学」による一つの展示の試みを行いました。
考古学者が持つ遺跡のイメージをモダンアートとして展示するというコンセプトで立命館大学考古学研究室の矢野教授がアーチスト、デザイナーとともに「芸術作品」を制作し、書院に展示されたその作品を囲んで、学生やアーチスト、考古学者らが座談会をするというものです。

多くの場合「アートと考古学」は考古遺物や遺跡にインスパイアされたアーチストの側から表現されることが多かったのですが、考古学の「研究」と「研究者」に長年、直に関わってきた私は、兼ねてからそれらアーチストが語る「インスピレーション」の源にあるはずのものが、実際の考古学が発掘したり分析したりして見出しているものとはかなり違ったものになっていて、ともすると2,3の言葉の響き以外には関心を持たずに創りあげられた自分流の解釈でしかないことに疑問を抱いてきました。
「アートと考古学」のつながり方に多様なバイヤスがあることは望ましいことだと思うので、あえてそれらのムーブメントに口をはさむ気はありませんが、「アートと考古学」と言うからには、互いがもっと切迫した「必要性」を持つ関係があるはずだという思いを持ち続けていました。
今回の試みは、かねてから私が実践したかったことでした。それが実際にできたのは、芸術的な視点や表現の「必要性」を発見したいとする考古学研究者らの活動が盛んになってきたからです。

考古学がアートを必要とする理由は、この学問が過去の人が残したモノを発掘し観察し分析し、あらゆる手段を用いて過去に起こったことを調査研究した末に、終にそれを伝えなければならないのが、他でもない現代の人々であるからだと私は思っています。
遺跡や遺物が実際に生きた人とともにあった時代とは、時間的にも暮らし方でも隔絶した21世紀を生きる人々へ、どれほどのインパクトを持って考古学は成果を伝えられるかというところに、まず 芸術は大きな助け舟を出すことができるでしょう。

もうひとつ、周りの環境やそれらを使っていた人々の痕跡がバラバラの欠片となって地層に埋もれた状態で発見される遺跡や遺構から、考古学者らは、土器の破片を繋ぎ合わせるように過去の村や町で生きた人の姿も繋ぎ合わせて見つけてゆかねばなりません。その時の彼らの眼差しに、柔軟で創造的なイメージとしての芸術的視点や哲学的視点があることがいかに重要かということが 長い「科学的」分析編重の時代を経て、ようやく考古学者たちの間で認識されるようになったことがあります。

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私がこれらの必要性について訴えたのは 分析科学としての考古学が隆盛を極めていったバブル時代のことでした。「復元イメージ」制作者としての私にとって、その時代にあった最も切迫した危惧とは、考古学界に自分たちだけにしか解らない用語や数値をあげ連ねた「研究発表」が溢れ、図とグラフの氾濫のなかで古代の村の風景はもとより、人間の姿さえ見えなくなり、現代を生きる普通の人々に伝えられる縄文時代や縄文時代の人々の世界が像を結べなくなったことでした。

以来10年を上回る年月を私は「アートと考古学」が関係を深めることにただならぬ願いを持ってきたわけですが、ようやくその「必要性」が広く受けとめられる時代になったと思います。
矢野教授が発表した「作品」イメージは、地層の中にある状態の土器片を土を取り除いて浮遊しているように3Dで配置したいというものでした。我々アーチストとデザイナー、造作の専門家から成るチームが考えたその具現化の方法は 写真のとおりです。

この日は両足院が主催される学びの講座ということで、お寺がお祀りされる多聞天から名を頂く「多聞会」と名がついた会でした。
書院で展示された「作品」は、考古学でもありアートでもあるのか、考古学でもなくアートでもないのか、座談会では多様な参加者がそれぞれの違った視点から多くの面白い発言をしました。それはまさしく多聞天のもとで執り行われた「多聞会」であったと思います。

多聞会「アートと考古学」Vol.1(PDF)

両足院 多聞会「アートと考古学」(PDF)

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プロフィール

安芸 早穂子

大阪府在住 画家、イラストレーター

歴史上(特に縄文時代)の人々の暮らしぶりや祭り、風景などを研究者のイメージにそって絵にする仕事を手がける。また遺跡や博物館で、親子で楽しく体験してもらうためのワークショップや展覧会を開催。こども工作絵画クラブ主宰。
縄文まほろば博展示画、浅間縄文ミュージアム壁画、大阪府立弥生博物館展示画等。

週刊朝日百科日本の歴史「縄文人の家族生活」他、同世界の歴史シリーズ、歴博/毎日新聞社「銅鐸の美」、三省堂考古学事典など。自費出版に「森のスーレイ」、「海の星座」
京都市立芸術大学日本画科卒業
ホームページ 精霊の縄文トリップ www.tkazu.com/saho/

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