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連載企画

小山センセイの縄文徒然草 小山修三

第51回 異常気象と水 2015年11月13日

集中豪雨、最高温度、竜巻、旱魃、洪水など最近の気象の荒々しさは不気味でさえある。それは日本だけでなく、世界各地でおこっていることだ。

本年五月にカリフォルニアを訪れた時は水不足が大きな問題になっていた。もともと降雨量が少なく、水源である後背山脈のロッキーやシエラの積雪量は例年の5%ほどしかないからだと言う。そもそも、アメリカ的生活様式は水とエネルギーを大量に使って清潔な生活環境を作ることが特徴である。トイレ、シャワー、掃除機でピカピカに部屋を磨き上げて、生活臭をすべて水に流してしまう。それがグローバル・モデルとなり、模範生である日本へ中国や東南アジアから観光客が押し寄せているのではないだろうか。

10月に友人がカリフォルニアからやってきた。「水不足はどうなっている?」、「ひどいもんだ。トイレ、シャワー、散水だけでなく飲み水まで心配、芝生は茶色、州知事は非常事態宣言をだして、25%の節水規制をかけた」、「山火事は?」、「今年は6000件以上、9月にはあのワインで有名なナパの近くの火事で大被害が出た」。

これは土地の支持力に対して人口が多すぎるという人間だけのものかもしれない。私が縄文時代の人口を推算した時は日本と面積や地理的条件がよく似たカリフォルニア州の記録が大変参考になった。サケとドングリを主食とした先住民の数は約30万、これは自然の中で暮らす狩猟採集段階での最適値だとみていいだろう。

そのカリフォルニアも19世紀半ばからゴ-ルドラッシュが起こり、人口が急速に伸びはじめる。それを支えたのは農業だった。機械力を駆使して自然を改変、地下水を汲み上げ、ロッキー山脈の水を引き込んで全米一の農業地帯に変えた。1890年代に入ると人口は100万を超えたがそれでも十分な余裕があった。現在の人口は3700万(狩猟採集時代の100倍!)、それでもまだ増え続けているのは航空宇宙、石油などのほか、情報、観光、娯楽産業の地となっているからだ。そして商品流通網の発達は農業でさえ無視できるレベルにまでなった。ところが、水不足によってこの生活スタイルが崩壊しようとしているのである。これに対し、ワシントン州から水路を引いて水を買うとか、砂漠の町ドバイのように海水を淡水に変える案などが出ている。実現可能な解決策とは言えるが、一方で地球のシステムを狂わせるような自然改変工事や科学技術がこの地球に大きな負荷を与えるのではないかという論も出始めた。(本年のコスモス国際賞を受けたスウェーデンのロックストローム博士の意見がそうである。)

ひるがえって日本はどうか。日本は水大国だと思っていたのに、飲料水の40%が輸入されているという。友人はなぜ日本のおいしい水を飲まないのかと不思議がる。それは商業主義の弊害かもしれないが、これから確実におこるであろう水問題にかかわっているのである。宇宙ステーションの自己資源完結(に近い)システムを考えることも一案かもしれない。しかし、そんな窮屈な生活ではなく自然の中で生きようとする私たちの発想の転換が必要なのではないだろうか。

芝生に変わって水をやらなくてもいいサボテンなどが庭に植えられ始めた。 (バークレイの町かど)

芝生に変わって水をやらなくてもいいサボテンなどが庭に植えられ始めた。 (バークレイの町かど)

水枯れの湖畔のレストランでは「水はサービスできません、ビールを飲んでください」と。

水枯れの湖畔のレストランでは「水はサービスできません、ビールを飲んでください」と。

プロフィール

小山センセイの縄文徒然草

1939年香川県生まれ。元吹田市立博物館館長、国立民族学博物館名誉教授。
Ph.D(カリフォルニア大学)。専攻は、考古学、文化人類学。

狩猟採集社会における人口動態と自然環境への適応のかたちに興味を持ち、これまでに縄文時代の人口シミュレーションやオーストラリア・アボリジニ社会の研
究に従事。この民族学研究の成果をつかい、縄文時代の社会を構築する試みをおこなっている。

主な著書に、『狩人の大地-オーストラリア・アボリジニの世界-』(雄山閣出版)、『縄文学への道』(NHKブックス)、『縄文探検』(中公 文庫)、『森と生きる-対立と共存のかたち』(山川出版社)、『世界の食文化7 オーストラリア・ニュージーランド』(編著・農文協)などがある。

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