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連載企画

世界の"世界遺産"から

第76回 何度歩いても発見ありの白神山地 2015年12月22日

春夏秋冬、これまで10回近く青森県の世界遺産・白神山地を歩いている。この連載でも冬、初夏と2度、その魅力を語ったことがあるが、今年の秋もまたまた訪れる機会に恵まれ、さらなる愉快な発見があったのでご報告したい。

今回の目的は、白神の水。暗門の滝の手前に位置する「緑のシャワーコース」入口の水場、コース途中のせせらぎ、「目屋渓コース」の奥、岩屋観音の水場と歩き、ブナの森が育んだ水を飲み比べたのだ。同じ白神山地のなかで距離も離れていないのに、そんなに差があるのかしらと思っていたのだが、いやあ、びっくり!

いずれもおいしいことに変わりはないものの、味わいは明らかに異なっていた。入口の水場はふっくらこっくり、せせらぎの水はすっきり、そして岩場を経てしみ出る岩屋観音の水はきりっ。ガイドさんのお話も軽妙洒脱でたいそう面白く、非常に実り多いひとときだった。

今回歩いたコースはともに、とびっきりのへたれ&ものぐさであるわたくしでも、さほどがんばらずに済む初心者向け。道が整備されている上、案内を聞きながらでも、2時間弱でまわれてしまう気軽さだ。足腰に自信のある方は、避けてしまうかもしれないが、白神山地散策は難易度には関係なく、ガイドさんのお力を借りながら森とじっくり向き合うことが鍵になると、あらためて気付かされた。

西目屋の「白神山地ビジターセンター」もまた、一刻も早く歩き出したいという思いから、もしかしたら通り過ぎてしまうケースが多いのではないだろうか。しかしながら、ブナの起源や成長の過程、細やかに広がる根の様子、森の生態系などを胸に刻んでから山に入るのが確実に得策なのだ。

もちろん、なんの知識がなくても、森のなかで深呼吸したり、ふかふかした落ち葉の道を行くだけでも、心身は喜ぶ。とはいえ、ビジターセンターでのひとときとガイドさんのお話の相乗効果を得られれば、散策の楽しみは何倍にもふくらむのだから、逃すのはもったいない! そう断言してもいい。

そうそう、もうひとつ……意外に知られていないのが、白神産地でとれる「世界自然遺産しらかみハチミツ」である。西目屋の「Beechにしめや」のカフェでは、そのままでも充分においしいジェラートに、すこぶる旨いはちみつを好きなだけたっぷりかけて食べられる口福あり。こちらも、通り過ぎるのはもったいない、もったいない! というわけで皆さま、雪解けを待ってぜひ、白神に!!

「緑のシャワーコース」のブナの森。 写真:松隈直樹

「緑のシャワーコース」のブナの森。
写真:松隈直樹

山に降った雪や雨は、歳月を経て流れ出る。 写真:松隈直樹

山に降った雪や雨は、歳月を経て流れ出る。
写真:松隈直樹

 

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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