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連載企画

世界の"世界遺産"から

第78回 ブルゴーニュのワインと青森の酒もテロワールが育てる。 2016年3月4日

「テロワール」。ワインにさほど詳しくなくても、その言葉を耳にしたことがあるかと思う。地質や気候、地形、人的なものなど複合的な要因がもたらす、その土地特有の農作物の特徴。2015年夏に世界遺産となった「ブルゴーニュのぶどう栽培の風土」は、そのテロワールが登録の礎となっている。

ブルゴーニュ地方を巡れば、「デギュスタシオン(試飲可)」の看板を掲げたワイナリーがそこかしこに見られ、旅人でも気軽に試飲を楽しめるのが嬉しい限り。実際、彼の地でとてもとても積極的に飲み比べに挑んだことがあるのだが、同じ品種のぶどうでも、畑によりワインの味わいや香りが明らかに違い非常に面白かった。
極端な例では、隣り合う区画でも個性の差が! あまりにも愉快でならず、あちらこちらで飲んで、飲んで、飲まれて、飲んで、幸せにひたった。

そのなかでもっとも感慨深かったのは、ワイン界の王様といっても過言ではない高嶺の花、「ロマネ・コンティ」だ。ブルゴーニュの醸造所内は一般客の立ち入りが許されず、わたくし自身、これまで口にしたことはおろか、ボトルにさえお目にかかったことがないのだが……。なんと、畑を巡るツアーの最中に、その名を刻んだ奥ゆかしい表示を目にしたのだ。

とはいえ別段、隔離されたエリアではなく、周囲にはごくふつうにほかのぶどうの木が栽培されていた。しかも、その名声を考えればあまりにもさりげなく、そして小規模。なのにこの区画から、特別な1本が生まれるのがつくづく不思議でならず、まさしくテロワールの魔法なのだと実感したのである。

このテロワールに似た感覚は、わざわざフランスまで行かなくても、青森県内の居酒屋で体験できる。
県産の日本酒を飲み比べるだけで、今夜、すぐにでも!
ごく近隣の蔵でたとえ同じ米を使って酒を造っても、完成した酒の味はそれぞれに花開く。これは人の技や感覚はもちろん、発酵に働く酵母菌(蔵ごとに異なる)、原料の8割を占める水が影響している。さらには気候や湿度、風の重さや軽さなどなど、テロワール同様、複合的な背景が個性を生んでいるのだ。

2つの半島を有し、真ん中に八甲田山が鎮座する青森県は、地形が複雑で気候は多様。すなわち県内の酒は、他県にも増してバラエティに富んでいるのだ。たとえば雪降る津軽地方はぽちゃり愛らしく、冷たい風が吹く太平洋岸の酒はすっきりハンサム……。どうぞ皆さま飲んで、飲んで、飲まれて、飲んで、その美味しい事実を探求していただきたい。

ロマネ・コンティのぶどう畑。言われなければ気づかないほど控えめ。 写真:松隈直樹

ロマネ・コンティのぶどう畑。言われなければ気づかないほど控えめ。
写真:松隈直樹

とあるワイナリーでの試飲。すべて制覇! 写真:松隈直樹

とあるワイナリーでの試飲。すべて制覇!
写真:松隈直樹

ワインと食の組みあわせで、互いの花開き方が変わるのが楽しく、暴飲暴食。 写真:松隈直樹

ワインと食の組みあわせで、互いの花開き方が変わるのが楽しく、暴飲暴食。
写真:松隈直樹

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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