前々回、前回に引き続き、イギリスのお話を。というのも、この星に点在する世界遺産群のかけらが集結、といっても過言ではない場所があるから。1759年開館の大英博物館だ。
現在の所蔵品は、約1000万点。古代エジプトやメソポタミア、ギリシャ、ローマ、果ては南北アメリカ大陸、アジアまで世界各地の歴史を網羅した展示は、数も内容も圧巻。大英帝国が栄華を極めた頃に莫大な資金をかけ、ときにはなかば無理矢理持ってきた品もあるため、「泥棒博物館」との揶揄も聞く。しかしながら昨今の状勢を思えば、ロンドンにあるからこそ破壊を逃れたものは少なくないはず。また、最新技術のもとでの研究が進むことを、歓迎する国もあるそうだ。
これまで幾度となく訪ねているが、飽きるなんてことはまったくなく、行くたびにむしろ面白さが増す。あらたな発見がある。最近では、まあ、いいか、と思い込んでずっと後回しにしていた日本館で根付のコレクションと出会い、心を奪われた。海外随一の所蔵を誇る縄文関連の出土品からマンガを含む現代アートまで、「日本のものには時代を超えて共通する繊細な感覚がある」とのキューレターの言葉は、耳にとても新鮮に響いた。
その展示はもちろんなのだが、毎回、すごいなあと感慨深く思うのは、この大英博物館をはじめロンドンの多くの博物館や美術館が無料なことにある(寄付はウェルカム!)。ロゼッタストーンやミイラを食い入るように見ている子どもたちや、熱心にメモを取りながらじっくりまわる地元の学生を見ると、気楽に来られていいなあと、心から羨ましく思う。
これまで財政難を理由に何度か有料化が検討されたが、広く文化を知らしめるという精神が制度を支えてきたのだそうだ。大英帝国の時代の世界の覇者としての矜持は、今なお継がれているのかもしれない。EU離脱が今後、影響を及ぼすかもしれないが、できるならその矜持は守られて欲しい。
まだイギリス体験が浅かったころ、彼の地に住む友人に電話をしたところ、「彼は今、ヨーロッパに出張中です」と言われ、頭のなかが一瞬、疑問符だらけになったことがある。イギリス人は自分たちの島をヨーロッパだとは思っていない。教科書では学べなかった事実を、身をもって教えてもらった。時代錯誤かもしれないが、わたくし自身はイギリス人の独得の誇り高き精神を、パブの存在と同じくらいとても好ましく思っている。

アッシリアの守護獣神像は高さ4m。館内最大級の展示物。
写真:松隈直樹

日本館では火焔土器を手塚治虫の作品とともに展示。
写真:松隈直樹