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連載企画

世界の"世界遺産"から

第87回 旅は遮光器土偶とともに。 2016年12月22日

ふと気になって今年のフライト数をチェックしてみたら、70回も飛行機に乗っていた。新幹線での移動を加えたら、おそらく100回以上。すなわち、50回は旅に出ていることになる。夜の東京パトロールがなかなかできず、なじみの飲み屋さんに不義理を重ねている切ない状況もいたしかたあるまい。

その旅の多くにつきあってくれたのが、2014年12月に本コラムでご紹介したマイ遮光器土偶の「シャコちゃん」。SNSにも写真をアップしているため、そばにいないと「あれ、シャコちゃんは?」と各地で聞かれるほど、知名度抜群の人気アイドルである(わたくしの周囲限定だが)。今年もっともインパクト大だったのは、大英博物館の日本館でのこと。キュレーター(学芸員)さんがシャコちゃんを見て、「キュ~~ト!!!」と?のまなざしになっていたのが印象深く胸に刻まれている。

暫定リスト記載の案件も含め、世界遺産関連資産への旅は10カ所。京都の寺や秋の白神山地、ストーンヘンジ、ロンドンのあれこれなど、大好きな場所へと再訪する機会に恵まれたのが嬉しかった。一方では切望しつつも、昨今の世界事情と薄いお財布のせいで、旅がかなわない場所もある。そのひとつが、エジプトのツタンカーメンの墓所だ。

隠し部屋の有無に関する議論がニュースになるたび、心がじゃわめぐ。玄室までの通路が短いため、ほかのファラオの墓と比べるとこぢんまりとしているが、金色にきらめく空間は息をのむほど美しかった。もしあの奥に手つかずの空間があるのなら、どれほどまばゆい輝きを放つことか。たとえ今行ったとて隠し部屋が見られるわけではないが、現場の空気を感じたくてたまらない。新発見という点では、メキシコのマヤ文明の遺跡「チチェン・イツァ」のピラミッド(第6回に写真掲載)の内部が、三重構造になっていたとの報せも気になる。これまた中をのぞけるわけではないが、行きたい、行きたい、行きたい~!

折しも、来年の大河ドラマの主人公・井伊直虎が男性だったのではないかと思われる発見があったばかりだが、技術の進歩や新たな発掘により、おそらく来年も世界各地から思わぬ事実がもたらされることだろう。重ねられる紆余曲折。歴史ミステリーは、下手な小説よりもずっと面白い。現世を全うした後、あの世から中継で見られないかしらなどと欲深く思ったりもする。未来に解き明かされる謎を思うと、極上の推理小説を途中で遮断されるような気分にかられるのだ。

とにもかくにも、まだまだ旅は続きそう。来年もあちらこちらに、シャコちゃんと赴きます。まずは皆さま、良いお年をお迎えくださいましな。

 

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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