ふと気になって今年のフライト数をチェックしてみたら、70回も飛行機に乗っていた。新幹線での移動を加えたら、おそらく100回以上。すなわち、50回は旅に出ていることになる。夜の東京パトロールがなかなかできず、なじみの飲み屋さんに不義理を重ねている切ない状況もいたしかたあるまい。
その旅の多くにつきあってくれたのが、2014年12月に本コラムでご紹介したマイ遮光器土偶の「シャコちゃん」。SNSにも写真をアップしているため、そばにいないと「あれ、シャコちゃんは?」と各地で聞かれるほど、知名度抜群の人気アイドルである(わたくしの周囲限定だが)。今年もっともインパクト大だったのは、大英博物館の日本館でのこと。キュレーター(学芸員)さんがシャコちゃんを見て、「キュ~~ト!!!」と?のまなざしになっていたのが印象深く胸に刻まれている。
暫定リスト記載の案件も含め、世界遺産関連資産への旅は10カ所。京都の寺や秋の白神山地、ストーンヘンジ、ロンドンのあれこれなど、大好きな場所へと再訪する機会に恵まれたのが嬉しかった。一方では切望しつつも、昨今の世界事情と薄いお財布のせいで、旅がかなわない場所もある。そのひとつが、エジプトのツタンカーメンの墓所だ。
隠し部屋の有無に関する議論がニュースになるたび、心がじゃわめぐ。玄室までの通路が短いため、ほかのファラオの墓と比べるとこぢんまりとしているが、金色にきらめく空間は息をのむほど美しかった。もしあの奥に手つかずの空間があるのなら、どれほどまばゆい輝きを放つことか。たとえ今行ったとて隠し部屋が見られるわけではないが、現場の空気を感じたくてたまらない。新発見という点では、メキシコのマヤ文明の遺跡「チチェン・イツァ」のピラミッド(第6回に写真掲載)の内部が、三重構造になっていたとの報せも気になる。これまた中をのぞけるわけではないが、行きたい、行きたい、行きたい~!
折しも、来年の大河ドラマの主人公・井伊直虎が男性だったのではないかと思われる発見があったばかりだが、技術の進歩や新たな発掘により、おそらく来年も世界各地から思わぬ事実がもたらされることだろう。重ねられる紆余曲折。歴史ミステリーは、下手な小説よりもずっと面白い。現世を全うした後、あの世から中継で見られないかしらなどと欲深く思ったりもする。未来に解き明かされる謎を思うと、極上の推理小説を途中で遮断されるような気分にかられるのだ。
とにもかくにも、まだまだ旅は続きそう。来年もあちらこちらに、シャコちゃんと赴きます。まずは皆さま、良いお年をお迎えくださいましな。
- 金木で太宰治の生誕祭に参加。 (写真:松隈直樹)
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イギリス行きの機内で初めてのつけ麺体験。
(写真:松隈直樹)
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鰊みがき弁当とともに函館から小樽へ。
緑の携帯カップは、えへへっ、
壇蜜さんからの贈り物。 (写真:松隈直樹)
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マンボミュージシャン・パラダイス山元さんから
いただいた帽子をかぶり、メリークリスマス。
(写真:松隈直樹)
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紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。
日本大学芸術学部を卒業。
英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。
旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。
- 第100回 いつでも、どこでも、心に青森と縄文を。
- 第99回 穏やかな瀬戸内の海に守られた世界遺産
- 第98回 神話の世界にふれられる宗像の世界遺産
- 第97回 青空に映えるキラキラ金閣寺、再訪。
- 第96回 艶やかな色彩の文化を求め雪降る古都へ
- 第95回 地球の歴史を感じるモロッコの大地
- 第94回 イギリス湖水地方はピーターラビットからの贈り物-その2
- 第93回 イギリス湖水地方はピーターラビットからの贈り物-その1
- 第92回 クミンとミントが香るマラケシュ旧市街
- 第91回 シルクロードの旅人に思いをよせて。
- 第90回 ご存じですか、ビートルズの故郷は世界遺産なんです!
- 第89回 ヴェルサイユ宮殿の最後の主に、もっと光を!
- 第88回 貴重な生物と美酒待つ奄美大島へ。
- 第87回 旅は遮光器土偶とともに。
- 第86回 古代の都は現代の癒やしの地……。
- 第85回 リビアのあの世界遺産は今……。
- 第84回 世界遺産的お宝集結。大英博物館のすごさとは?!
- 第83回 世界遺産の真ん中で旨しビールを飲む
- 第82回 大地に埋もれたままのイギリスの環状遺跡
- 第81回 佐渡でふれた黄金色の夢の名残
- 第80回 久し振りに上野に行ってみませんか。
- 第79回 煙なたびく桜島とともにある鹿児島の世界遺産
- 第78回 ブルゴーニュのワインと青森の酒もテロワールが育てる。
- 第77回 007が案内するスリリングなイギリス世界遺産
- 第76回 何度歩いても発見ありの白神山地
- 第75回 富岡製糸場で工女たちの笑顔に思いを馳せる
- 第74回 バルタン星人もかなわないモンゴルの秘技
- 第73回 茶の間を懐かしく思うモンゴルのゲルでの暮らし
- 第72回 グラバー氏は世界遺産登録の立役者!
- 第71回 文化遺産で占う運命はいかに?
- 第70回 オスマン朝に圧倒されたトプカプ宮殿
- 第69回 トルコ・イスタンブールにて衝撃の大発見?!
- 第68回 沖縄の世界遺産はサァ……
- 第67回 沖縄の世界遺産で出会った「なにか」
- 第66回 萩の町で幕末の志士たちの存在をリアルに体感
- 第65回 世界遺産登録を願い遮光器土偶が各地を視察!?
- 第64回 神々とともにあるバリ島の世界遺産。その2
- 第63回 死海を未来の世界遺産に!
- 第62回 世界遺産を通して垣間見るイスラエルの過去と今 その2
- 第61回 世界遺産を通して垣間見るイスラエルの過去と今 その1
- 第60回 長崎の教会群、世界遺産登録へ前進!
- 第59回 神々とともにあるバリ島の世界遺産。
- 第58回 光輝く黄金よりも素晴らしきものは……。
- 第57回 夜空を舞うオーロラは世界遺産ならぬ宇宙遺産!
- 第56回 彦根城下にて井伊直弼を偲ぶ その2
- 第55回 彦根城下にて井伊直弼を偲ぶ その1
- 第54回 世界遺産の“和食”を召し上がれ。 その2
- 第53回 世界遺産の“和食”を召し上がれ。 その1
- 第52回 ヴェルサイユで見た、甘美な夢。 その2
- 第51回 ヴェルサイユで見た、甘美な夢。 その1
- 第50回 ああ、オーパーツは永遠の憧れなり
- 第49回 あんまり暑いので特別編~敦煌の世界遺産級スイカ
- 第48回 インドの風に吹かれ心、縄文の頃へ
- 第47回 美しさに泥酔、のタージ・マハル
- 第46回 雪深い白神山地も、そろそろ春ですね。
- 第45回 南アフリカは世界遺産級の美味いっぱい。
- 第44回 アフリカ大陸西南端、喜望峰に吹く風は。
- 第43回 南アフリカ・ロベン島に見た希望。
- 第42回 誰か故郷を想わざる in マカオ。
- 第41回 乙女恥じらい頬染める、屋久島の森。
- 第40回 古代エジプトの景色はこてこての極彩色!
- 第39回 悪女か否か? ハトシェプスト・サスペンス劇場。
- 第38回 ロンドンオリンピック……番外編の世界遺産?
- 第37回 ロンドンオリンピックで世界遺産三昧。
- 第36回 食いしん坊の胸ときめかす白神山地。
- 第35回 「是川縄文館」で鮮やかな縄文ワールド満喫。
- 第34回 長崎の教会群にて深くもの思ふ
- 第33回 長崎・外海の夕陽に2012年の願掛けを。
- 第32回 熊野古道はそれでもなお、清らかな風が吹いていた。
- 第31回 「呪い」が真実なら、それこそ世界遺産だが。
- 第30回 謎もまた、世界遺産級に壮大なピラミッド。
- 第29回 世界遺産の美味、メキシコで時間旅行。~その2~
- 第28回 世界遺産の美味、メキシコ料理で時間旅行。~その1~
- 第27回 夏草や世界遺産は夢の跡。
- 第26回 不屈の精神こそ、スコットランドの世界遺産。
- 第25回 世界遺産で誓った愛の未来はいかに。
- 第24回 アユタヤの遺跡で日本人の心を思う
- 第23回 激動の地での笑顔の記憶
- 第22回 ううっ、寒い! そうだ、京都、行こう!!
- 第21回 この星最大の”世界遺産”に涙。
- 第20回 心傾きすぎたひねくれ者のピサ観察記。
- 第19回 寂しき皇帝を思う真夏の北京・紫禁城。
- 第18回 万里の長城で負け戦。
- 第17回 リビアにて、世界遺産をひとり占め。
- 第16回 アステカの涙の上に建つメキシコシティ。
- 第15回 ドイツ・ケルンにて、縄文の顔を思う。
- 第14回 ビール飲みつつ愛でる、ブリュッセルの世界遺産。
- 第13回 危機に瀕する世界遺産「カトマンズの谷」。
- 第12回 満漢全席的世界遺産、バチカン市国
- 第11回 美食に誘われて出会った、リヨンの世界遺産。
- 第10回 サンクトペテルブルグの風に青森を思う。
- 第9回 聖地エルサレムの歓びと悲しみ。
- 第8回 サハラ砂漠で思い知らされた人の業
- 第7回 遺跡と満月。人智を越えた舞台装置のもとで。
- 第6回 謎ゆえに夢が見られるマヤ遺跡
- 第5回 古き物を古きままに継ぐ英国流
- 第4回 発見、旨し匂いあふれる世界遺産
- 第3回 星空の下、我、「畏れ」を知る。
- 第2回 分かち合うか、秘するか。ある世界遺産の攻防。
- 第1回 世界遺産の礎から時を駆けて。
本文ここまで