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連載企画

世界の"世界遺産"から

第90回 ご存じですか、ビートルズの故郷は世界遺産なんです! 2017年3月20日

イギリスのリヴァプールへ行ってきました……と聞けばおそらく、多くの人がビートルズを思い浮かべることだろう。滞在したのは、彼らの写真がそこかしこに飾られた「ハード・デイズ・ナイト・ホテル」。散策すればあちらこちらに4人の姿があり、彼らが演奏していたキャヴァーン・クラブ前の通りは、観光客でいっぱい。ゆかりの場所をめぐるツアーも、人気の的だった。ジョン・レノンとポール・マッカートニーが青春時代を過ごしたそれぞれの家や、実在するペニー・レイン、ストロベリー・フィールズ・フォーエバーのモチーフになった孤児院跡などを訪ね、感無量のひとときを過ごした。

とはいえ、今回の主役はビートルズではない。実はリヴァプールは、「海商都市リヴァプール」として登録された世界遺産。町の歴史は古く、12世紀には文献に記されているほどだ(表記は異なる)。その後、17世紀末になり、大英帝国の繁栄とともに当代随一の貿易港として脚光を浴びることに。19世紀以降は、新大陸行きをはじめとする大型客船も航行されて賑わいを増す。1912年、悲劇が待ち受けることも知らずにタイタニック号が処女航海へと船出したのも、リヴァプールなのである。

登録エリアは昔ながらのドックがある港湾地区に加え、ヴィクトリア朝時代の歴史的建造物が数多く残る市街地内の広いエリアだ。現在と過去、雑然と優雅、雄壮と繊細……対比する景色が入り交じっているのが非常に面白い。一方で港の再開発計画が影響し、2012年に危機遺産リスト入りした状況を考えれば、複雑な心境にもかられる。都市部に内包された世界遺産は、少なからず未来に、同様の問題を抱えるのかもしれないとも思う。

して、旅の最大の目的は、世界遺産そのものではなく、魔法界。この古い町並みに魔法をかけた、ハリー・ポッターの新シリーズ。映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」だった。1926年、大恐慌前の好景気にわくニューヨークを舞台にした物語は、ロンドン近郊にあるスタジオ内で撮影されたが、唯一、ロケ地に選ばれたのがこのリヴァプールなのだ。

撮影が行われたのは港湾地区のアルバート・ドックほか、歳月を経た世界遺産登録資産がほとんど。ことに19世紀半ばに建築された「セント・ジョージ・ホール」は、その外観が何度か背景として映し出され、大統領候補のパーティの場面では、壮麗な装飾が施されたホール内も利用された。訪問時はちょうどパイプオルガンのメンテナンス中で、幻想的な響きとシャンデリアのきらめきのなか、妄想ファンタジーオタクはしばしうっとりたたずんでしまった。この4月にはDVD/Blu-rayも発売になる。画面をにらみつつ、ぜひリヴァプールの世界遺産に思いを馳せていただきたい。

4人(微妙に似てないような……)の後ろに建つ2つのビルは、世界遺産登録資産の一部。
写真:松隈直樹

「セント・ジョージ・ホール」の装飾とパイプオルガンの美しさは圧巻。/ 写真:松隈直樹

 

プロフィール

山内 史子

紀行作家。1966年生まれ、青森市出身。

日本大学芸術学部を卒業。

英国ペンギン・ブックス社でピーターラビット、くまのプーさんほかプロモーションを担当した後、フリーランスに。

旅、酒、食、漫画、着物などの分野で活動しつつ、美味、美酒を求めて国内外を歩く。これまでに40か国へと旅し、日本を含めて28カ国約80件の世界遺産を訪問。著書に「英国貴族の館に泊まる」「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(ともに小学館)、「ハリー・ポッターへの旅」「赤毛のアンの島へ」(ともに白泉社)、「ニッポン『酒』の旅」(洋泉社)など。

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