今年も半分が過ぎようとしているが、気がつけばやはり、旅ばかり。地元よりも、青森をはじめとする各地の居酒屋に足繁く通う状況になっている。
酒場同様、旅の途中、必ず立ち寄るのが、市場やスーパーである。店の棚に並ぶ品は全国的に均一化の傾向にあるものの、それでもなお、長年親しまれている独自の美味や調味料(「イギリストースト」や「源たれ」的な)などと出会える機会は少なくない。
海外でもまた、市場&スーパー巡りは欠かさない。なかでも愛してやまないのは、スークと呼ばれるアラビア語圏の市場だ。その魅力は、土産物から生鮮食品まで売られている雑然、混沌とした景色と、多彩なスパイスが強烈濃密に香る空気。いつも大昔に流行った久保田早紀の「異邦人」を脳内で歌いながら、うっとり異国情緒に浸っている。
今年の春に訪れたモロッコ第4の都市、マラケシュ旧市街のスークもまた、魅惑を秘めていた。世界遺産に登録された旧市街の歴史は11世紀後半、マラケシュがモロッコの首都だった時代にまでさかのぼる。ガイドが「へびがとぐろを巻いたよう」と説明してくれたが、まるで迷路のごとし。細い路地は無軌道に枝分かれし、行き止まりかと思えばその奥にまた店が続く。当時のムラービト朝から数多くの為政者が盛衰を繰り返し、祈りの場や水くみ場を要としたあらたな町が、ブロックのように加えられて広がったのだそうだ。
ほかの国のスークと異なるのは、スパイスに加えてハーブが多様に売られていること。たとえばスペアミントをたっぷり入れたお茶は喉の渇きを抑える、冬に重宝されるニガヨモギは体を温めるなど、モロッコの生活にはハーブの知恵が根付いているのだという。一方、スパイスで幅をきかせているのは、クミン。テーブルには塩胡椒の代わりにクミン塩が置かれ、朝食の卵料理から夕食の肉や野菜までありとあらゆるものにふりかける。
その風味にすっかりはまったわたくしは、今回、スークでたっぷりのクミンパウダーを購入。帰国後、スーツケースを開けると、すべてのものに香りがしっかりとしみついていた。衣類は洗ったものの、旅から2ヶ月以上たった今なお、財布や資料など意外なところにクミンの気配が潜んでおり、日々マラケシュのスークへと思いが飛んでいる。

マラケシュ旧市街地内にある
スパイスとハーブの専門店。
写真:松隈直樹

土産物屋の店頭も混沌。価格は交渉が基本。
写真:松隈直樹