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連載企画

あそこのおかあさん縄文人だから -山田スイッチ-

第24回 外黒・内朱 2010年4月26日

問題。外が黒くて内側が赤いもの。これな~んだ?

答えは、私たちの身の回りにある、漆塗りの「お椀」の色です。

お蕎麦やさんやうどん屋さんに行っても、大概のものはこの「外黒・内朱」の丼に入って出てきます。私はこの「外黒・内朱」という言葉が、気になってしょうがない。

外が黒くて内側が赤い。黒と赤とは一体、縄文時代においてはどんな意味を持つ色だったのでしょうか?

狩猟で動物を狩る時、石器で切り裂いた熊などの獣の身体は黒くても、中は鮮血によって真っ赤に染められていると、古老の方は語ります。

赤は生命そのものの色。三内丸山遺跡や是川遺跡から出土した漆塗りの土器や土偶は、水に濡れた状態では非常に鮮やかな赤い色をしているのだそうです。

是川遺跡から出土した合掌土偶も、作られた当時は怖いくらいに全身が真っ赤に染められていたのでしょう。赤い漆は、元からそういった樹液があるわけではなく、貴重な漆にベンガラ(酸化鉄)などを混ぜることによって作られます。

それを思うと、きっとこの漆塗りの赤と黒というのは、獣を切り裂いた時の色、そういった、生と死を表す色だったのではないか……? と。この仮説を確かめたくて、青森市に住む民俗学研究家の、御年76歳になる田中忠三郎先生の元を訪ねてみました。

「先生、外黒・内朱って一体、どういう意味なんですか?」

すると、先生は顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら、こう言ったのでした。

「青森県の下北半島では、旧正月や祝いの席で「けいらん」というお出汁の中にあんこの入った餅を食べる習慣があるのですが、けいらんを食べる時は必ず、外黒・内朱のお椀が使われていたんです。」

「ほうほう! それでは、きっとその習慣は縄文時代から引き継がれたもので、やはり、狩りをした時の感動と、真っ赤に血を流して食べられ、私たちの命に変わっていった獣への感謝の気持ちから、黒と朱のお椀が現代にまで引き継がれてきたんですかねえ!?」

すると、先生。

「いやいや、あの。外黒・内朱というのは、昔から、女の人の……アソコの色だと言われているんです。」

「ハイイイイ……!?」

「ほら、外が黒くて、内側というか、中が赤いから。」

「えっ、ええええええっっ!?」

「いやいや、昔はそれが一番の喜びで、一番の神秘だったんです。だって、そこから全ての生命が産まれてくるわけですから。」

アソコは、一番の神秘だったのか……!

田中忠三郎先生のお話を聞いて、なぜ是川遺跡から出土した土偶のうち、アソコが付いている土偶がかの合掌土偶だけだったのかが、わかったような気がした。アソコが付いている上に真っ赤に塗られていたのだ。そして、手を合わせた、祈りの形。

母親になってみると、本当に「体験」としてわかるのだが。生命は、アソコから現れる。

このわけのわからない神秘を、合掌土偶はその存在一つで体現している。

合掌土偶の顔も、よく見ると出産直後の放心状態……、本当に切なくたまらないことを経験し、その場所に子供がいるという真実に遭遇した母親の、不朽の表情に見えてくる。

プロフィール

山田スイッチ

1976年7月31日生まれ。

しし座のB型。青森県在住コラムニスト。 さまざまな職を経て、コラムニストに。 著書に「しあわせスイッチ」「ブラジルスイッチ」(ぴあ出版刊)、「しあわせ道場」(光文社刊)がある。

趣味は「床を雑巾で拭いて汚れを人に見せて、誉めてもらうこと」。

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